「​彼」は人々に奇跡をもたらす力を持った天使でした。
しかし元よりスペックが尋常ではないほどに高く、
他の天使たちの仕事も代わりにこなしてあげるほどに優しい心の持ち主でもありました。
​そのため数多くの天使達の中でも「彼」は異彩を放っており、
その才能や人柄を妬む者もいました。

そんなある日、天使達から大切に祀られていた大天使像が
何者かによって破壊されてしまいました。
本来は事故による破損でしたが、
「彼」の才能を憎んでいたとある天使が犯人が「彼」であると告発。
その情報を確かめもせず鵜呑みにした天使達は
「彼」を吊し上げ、袋叩きにし、きれいな長い髪をも切り落し、
仕舞には「彼」の大きく美しい翼をむしり取り、宙から追放してしまったのです。
勿論、温厚な「彼」もあまりの理不尽さに抗いましたが、
抵抗も虚しく真実を知らぬまま、堕ちるしかありませんでした。

濡れ衣を着せられた哀れな「彼」は間もなく地上へと堕ちていきました。
地に叩き付けられたその華奢な体からは血が溢れ、服はボロボロに廃れ、
綺麗なブロンドの髪は血に塗れてしまいました。
天使は本来、人には認識されない存在です。
地に堕ちてしまえば誰にも見つけられず、ただ消失を待つのみだと。

​そう

自らを「マスター」と名乗る、一人の人間と出会うまでは。
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